教育NGOのマレットファンを応援するシリーズ第4弾は、バーンテープ保育園の園長先生、ジムさんです。倉庫街にある小さな保育園で、長年園長先生をつとめるジムさんを訪ねました。

 

 

 

 バンコク中心部、港に近い倉庫街にあるスワンオイ地区。住んでいる人の多くは建設現場や港や屋台などで日雇いの仕事をしています。一本だけあるメインストリートには小さな家々が軒を連ねていますが、その横に広がる何本もの小さな路地には、水たまりの上の簡素な小屋や日の射さない部屋などがひしめきあっています。

 

スワンオイ地区の表通り沿いに描かれたかわいい壁画がバーンテープ保育園の目印。隣にはタイの神様を祀った祭壇があります。間の路地を入っていきます。

 

 その一角から子どもたちの元気な声が聞こえてきました。地区の子どもたちが通うバーンテープ保育園です。おじゃますると、白いシャツに赤のパンツやスカートをはいた子どもたちがちょっと恥ずかしそうに迎えてくれました。ちょうど午前中のおやつの時間。キリスト教式のお祈りをしてから、先生が配るグアバをみんなモグモグとほおばっていました。

 

育園の中もカラフル。小さな保育園はスペースをフル活用。この教室は昼食後、お昼寝の部屋に。保育園はおやつ、昼ごはん、ミルクを提供。子どもの栄養面もサポートします。

 

 

子どもの持っている力を伸ばしたい

 教室4つだけの2階建ての保育園を案内してくださったのが園長先生のがジムさんです。年齢の小さな子どもたちの教室に行くと、みんなジムさんに抱きついてきます。ジムさんは一人ひとりを優しく抱きしめて、頭をなでながら声をかけてあげていました。

 教師をしていたキリスト教系の学校から派遣されて、ジムさんがここに赴任してきたのは今から約25年前。保育園は朽ちた木を寄せ集めたような今にも倒れそうな建物でした。保護者に働きかけて少しずつ資金を募り、改修に必要な材料や道具を集めてもらい、いらなくなったものをもらったりして、保育園の環境を整える。それがジムさんがまず取り組んだ仕事でした。

 

 

保育園を自分の家のように思って安心してほしい

 このスラム地区に初めて支援の手が差し伸べられたのはそれよりも10年前。教会の支援でタイプライターや英語といった職業訓練所が開設され、その後女性向けの職業訓練も行われるようになりました。年月が経ち卒業生たちが家庭を持つようになると今度は保育所が必要となり、バーンテープ保育園が始まったのです。

 苦しい生活は劇的に変わりません。親は毎日の仕事に追われ、子どもの世話をしたり遊ぶ余裕はなかなかかありません。切羽詰まった親に暴力を受けたり、両親の激しいケンカを目の当たりにする子どももいます。麻薬や飲酒の問題も身近にありました。そうした環境にある子どもたちをジムさんはひたすらに抱きしめてきたのです。

 「子どもたちにここを本当の家のように思ってほしいんです。家に帰って親がいなくて寂しくても、ここに来ればもう一つの家族がいると安心してほしい。子どもたちに幸せにはなってほしいと願っています」とジムさんは言います。

 

教室はカラフル。肩つないで食堂へ

 

「いただきま〜す」

 

昼ごはんのあとはお昼寝タイム。

 

 

地域とつきあって25年。ジムさんへの厚い信頼

 ジムさんはよく地区をまわり、住民たちに声かけていきます。「こんにちは。しばらく見なかったわね、元気にしてた?」「ごはんちゃんと食べれてる?」「足はよくなったかしら?」。ジムさんの姿を見るとみんなが笑顔になります。途中、保育園の卒園生に会えば「あら、学校お休みなの?」と様子をうかがい、その日保育園をお休みした子どもには「明日は来るわね」と促します。ジムさんの顔を見ると、思わず悩みを打ち明けてしまう人も。そうした時にもジムさんは親身になって耳を傾けていました。

 

地区のメイン通り

 

使われなくなった線路際での暮らし

 

住人に声をかけて歩くジムさん

 

 一緒に歩くうちに、ジムさんが25年もの間、この地区の人たちのためにどれだけ力を尽くしてきたかが伝わってきて心を打たれました。「後任の園長先生が見つかるまではまだがんばらなくちゃね」。穏やかな笑みを絶やさないジムさんが子どもたちの幸せを願う、その思いの深さがとても印象的でした。

 

 

ジムさんとマレットファンとの出会いは?

出会いはもう10年以上も前。マレットファンの3人は私にとって妹たちみたいな存在です。本当に純粋に子どもたちのことを思って活動していて、そこに共感するんです。彼女たちのがんばりに、姉のような気持ちで私ができることをしてあげたいといつも思っています。

マレットファンのムアイさん〜 マレットファンを設立する時、そして設立まもない時期に寄付をしてくださった、そのご恩は忘れられません。役員をしていただきたいとお願いしましたが、「後ろから支えるほうがいいの」とジムさんはおっしゃいました。マレットファンの活動を深く理解してくださっていることに心から感謝しています。

 

 

ジムさんのマレットファン(夢のたね)は?

子どもたちが今もこの先もしあわせいられること。それだけなんですよ。